飛行機のビジネスクラスについて


            


私は、初めてヨーロッパ(フランス)に行った1987年以来ほぼ毎年フランスに行きますが、飛行機の座席は、もちろんずっと一番安いエコノミークラスに乗ってきました。

誰もが知っているように、飛行機の座席(特に国際線)にはクラス分け(グレード)があります。

  ●エコノミークラス
  ●プレミアムエコノミークラス(数年前から新たに作られるようになった)
  ●ビジネスクラス(エグゼクティヴクラスとも言う)
  ●ファーストクラス(最近はこれをなくす航空会社も少なくない)

そこにあるのは、厳然たる経済学原理の貫徹する世界、もっと簡単に言うと、
身もフタもない「格差」が存在する世界です。

例えば今でも、フランスに行く場合、日本航空(JAL)とか全日空(ANA)などの日系の航空会社の航空券を買うと、季節によって変動しますが、
お盆や年末年始といった一番高い時期を除くと、おおよそエコノミークラスで燃油税入れて
往復15~20万円くらいです。
それがビジネスクラスだと
50~55万円に跳ね上がります。
さらにファーストクラスだと、
なんと250万円(!)とかといった、およそにわかには信じ難いお値段になります。


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ファーストクラスのお値段はケタ外れなので、この際ちょっと脇に置いておいて、ここではビジネスクラスのお話です。

ヨーロッパまで片道12時間(往復24時間)に、エコノミークラスは15万、ビジネスクラスは50万です。
はたして、この値段の違いをどう考えるか?

かつての私は、こう考えました。
たかが片道12時間(往復24時間)のために、15万円で済むところをわざわざ50万円出すというのは、いったいどういうことなのか?
その差額35万円は、実にバカげている。
確かにパッと見は、座席は大きくて広い。でも
たかだか片道12時間を我慢すれば、それだけの話だ。
その35万円があったら、現地(フランス)で、すごい高級ホテルに泊まれるし、すごいいいレストランにも行ける。
それで
チョー豪華な大名旅行が出来るではないか。
その方がよっぽどいいではないか?

みなさんも、普通はそう考えるのではないでしょうか?

実際、それでもビジネスクラスに乗るお客というのは、金持ち有名人だったり、企業の重役が会社の経費で行ったり、お役人とか政治家が税金で行ったりするものだと思っていました。
一般の人で個人でそれだけの金額を払って行く人なんてそんなに多くはないのではないか?

たまーに、オーバーブッキングなど航空会社の都合で、エコノミークラスから幸運にもビジネスクラスに変えてもらったということは、過去にありました。
確かに座席は広いし快適です。
しかしそれでも、プラス35万を自分で出してまでビジネスクラスに乗ろうとは思いませんでした。


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しかし、しかし、こうした考えは、次第に変わりました。
「たとえ35万出してもエコノミークラスには乗りたくない」というふうに。

ひとつはやはり、パリまで片道12時間という長旅が、ひどく苦痛に感じられるようになったこと。
もちろん30年前のアンカレッジ経由の時代の片道24時間よりはうんと短いのですが、それでも12時間はキツイ。狭い座席。足を伸ばして寝られない苦痛。
ビジネスクラスの区画からエコノミークラスの方にちょっと足を踏み入れた時に目に入ってくる、あの「座席と乗客のギッシリ・ミッシリすし詰め」感もキツイです。
こうして年齢を重ねるにしたがって、ますますエコノミークラスがつらくなってきました。

もうひとつは2012年にお腹をガッツリ切る大手術をして、エコノミークラス的な姿勢で12時間狭い飛行機に乗り続けることが、お腹やカラダ全体にとって、やはりとてもつらくなったこと。

そして、ビジネスクラスの快適さを、純粋に身にしみて感じるようになったこと、でした。

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この「ビジネスクラスの快適さを身にしみて感じるようになった」というのは、2011年3月の「
東日本大震災」の時のことでした。
私はあの震災の時は、出張で南フランスにいました。3月の下旬に帰国したのですが、震災のために帰りのエール・フランスは、日本人観光客も少ないし、
さらに原発事故もあって、フランスから日本に行こうなんてフランス人もほとんどいなくて、機内はガラガラでした。

帰国直前に、エールフランスのWEBサイトで予約の確認をした際、
「7000円追加料金を払ったら同じエコノミークラスでも、足が伸ばせる非常口の座席に変えられる」とあったので、
それはいいやと7000円追加して非常口の座席に変更しました。
ところがそれで実際に搭乗してみたら、なんとビジネスクラスに変更されていたのです。
エール・フランスのイキなはからいでした。

ビジネスクラスはエコノミークラスよりももっとガラガラでした。
そして極めて快適だったのです。
座席は広い、リクライニングをほとんどフラットまで傾けてゆったり寝られる、食事は豪華、サービスもいい。しかもすいている。
搭乗して離陸までの間に、すんばらしいシャンパンが、ガラスのグラスでお代わり自由で出てきました。
ガラガラの機内で、これまたガラガラのビジネスクラスに乗るという経験。
身体的な快適さと同時に、極めて大きな
精神的な快適さも味わうことが出来ました。
(東日本大震災の被災者の皆さんには、本当に申し訳ない話です)

単純なワタシは、これで完全にビジネスクラスの味をしめてしまいました。

   
2012年9月に乗ったルフトハンザ。マドリードからミュンヘンへの国際便。
左はエコノミークラスの朝食。右は同じ便のビジネスクラスの朝食。この違いを見よ。


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しかもビジネスクラスの快適さは、実は、
実際に飛行機に乗っている間の時間だけではないのです。
それは片道12時間(往復24時間)だけの話ではないのです。

もちろん搭乗前に使える専用ラウンジの存在もあります。
しかしそれだけではありません。

エコノミークラスの「難行苦行」を思う時、ビジネスクラスを予約した場合、「エコノミーに乗る必要がないんだ、ビジネスクラスに乗るんだ」という
《心の平安》が搭乗の何ヶ月も前から訪れるのです。
そして、なんと、「ビジネスクラスは快適だった」という《心の平安》が、搭乗した後も2~3ヶ月、
余韻として残るのです。
まるでバカな笑い話のようですけど、ホントにそうなのです。

実際の搭乗の
前後数ヶ月にわたる《心の平安》
「たった片道12時間のためにプラス35万」なのではなく、
「つごう前後数ヶ月にわたって持続する《心の平安》のための35万」でもあるのです。
まったくアホな話のように聞こえるかも知れませんが、私にとっては実際ホントにそうなのです。

     
 成田空港JAL サクララウンジ  ビジネスクラス。JAL SKY SUITE。
仕切りによる個室空間とフルフラットになる座席。
 ビジネスクラスの和食の一部


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私は、大学の業務で行く時以外は、いつもは日本航空(JAL)です。たまたま最初にマイレージをJALでため始めたので、それ以来ずっとJALです。
なので、最近はいつもJALのビジネスクラスでフランス往復します。
しかし毎年50万近くかかるビジネスクラスの航空運賃はなかなかの負担です。
しかも年に2回とか行くと、なおさらです。
大学のヒラ教員の安月給では、ちょっと無理です。

なので、この数年、私はひたすら「マイル」をためる、いわゆる「
マイラー」になってしまいました。
そうしてためた「マイル」を使って、安いエコノミークラスからビジネスクラスに「
アップグレード」するのです。

マイレージを効率よくたくさんためる方法はいろいろあります。
私は「
JALカード・ゴールド」というクレジットカードを入手し、ひたすらマイルをためる毎日です。
ちょっとしたコンビニの買い物ですら「JALカード」で払うようになりました。
そうするとマイルがたまります。
「特約店」だと2倍たまります(詳しくは「マイルをためるということ」参照)。


クレジットカード払いって、なんかどことなく「
借金してる」というイメージが付きまとったのですが、
結局同じ金額を払うのに、クレジットカード経由にするだけで「マイル」がたまり、ビジネスクラスに乗れるのです。これはもう止まりません(笑)。

「マイル」と「アップグレード」こそは、
今やすっかりわが人生の「生き甲斐」になってしまいました。世間ではこういうのを「マイル・ジャンキー」とも言うのだそうです(笑)。

ジョージ・クルーニー主演の映画『
マイレージ・マイライフ』というのがあります。
まさしくあの世界ですね。しかも彼と私はほぼ同い年だし(笑)。

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私はなにも「JALカード」の回し者ではありません。
ANAのマイルをためている人は、ANAのカードでマイルをためればいいのです。別にJALである必要は全然ありません。

いやそれでもビジネスクラスは意味がない、それだけお金をかけるなら、そのぶん現地で贅沢すればいい
という考え方も、それはそれでやはり正しいです。要はその人の価値観の問題なのです。

さて、しかしそうは言ったものの、
そんな私でも、
250万出してファーストクラスに乗ろうとは、さすがに思いません。
ファーストクラスはビジネスクラスと、そんなに劇的にいろいろなことが変わるわけでもないし(たぶん)。
250万円というのは、やはりあんまりです。

でもきっと一生使い切れないくらいお金を持っているという人は、ファーストクラスに乗るんでしょうね。
私も宝くじで何億も当たったら、一度は乗ってみたいと思います。
そしたらファーストクラスがクセになってしまうのがちょっと怖いですけど。


→「飛行機の座席のアップグレードについて」に続く

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